高齢期に入り、有料老人ホームへの入居や生活資金の確保のために「自宅マンションの売却」を検討する方が増えています。その際、不動産会社からよく提案されるのが「直接買い取り(業者買取)」です。
「すぐに現金化できる」「手間がかからない」といったメリットがある一方で、相場より数千万円も安く買いたたかれてしまうリスクも潜んでいます。
今回は、84歳の叔母と55歳の甥の実例をもとに、不動産買取の裏事情と、損をしないための売却ノウハウをプロの視点でわかりやすく解説します。
貯金2,000万円・入居金1,000万円。84歳叔母が選んだ高級老人ホーム
都内の都心マンションで一人暮らしをしていた84歳の由美さん(仮名)。子どものいない由美さんにとって、遠方に住む55歳の甥・荒井さん(仮名)が唯一の身内でした。
足腰が弱ってきた由美さんは、友人が入居している評判のよい有料老人ホームへの入居を決意します。
- 入居一時金:1,000万円
- 月額利用料:30万円
亡き夫が遺した預貯金約2,000万円と年金だけでは将来的な費用が不足するため、馴染みの金融機関から紹介された大手不動産業者「A社」に自宅マンションの売却を相談することになりました。
不動産業者が「買い取り」を強力に勧めてくる理由
A社の担当者は、売却方法として「仲介」ではなく「買い取り」を強く勧めました。
| 売却方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 仲介 | 相場通りの高値で売れやすい | 売却までに数ヶ月かかる・内覧対応等の手間がある |
| 買い取り | 最短数日で現金化・荷物処分も丸投げ可能 | 売却価格が相場の7〜8割(安くなる) |
「老人ホームへの入居を急ぐなら買い取りが一番」「荷物もそのままでいい」と言われ、高齢の由美さんは「プロが言うならここで決めるしかない」と思い込んでしまいました。
参考:不動産売却における【買取】と【仲介】3つのポイントで徹底解説!
査定額1億円なのに買取り7,000万円!?甥が抱いた不信感
甥の荒井さんが買い取り条件を確認したところ、驚くべき数字が提示されていました。
- A社の査定額(市場相場):1億円
- A社の買い取り提示額:7,000万円(相場の7割)
周辺のマンション価格が高騰している都心エリアにもかかわらず、相場より3,000万円も安い金額だったのです。
「部屋が古く傷んでいるから」という理由で納得させられそうになっていた叔母を止め、荒井さんは急遽一括査定などを活用して別の会社2社(B社・C社)に相見積もりを依頼しました。
衝撃の相見積もり!買取提示額に「2,000万円」の差
立ち合いのもと、2社に改めて査定してもらった結果、各社の姿勢と提示額に決定的な差が出ました。
- A社(当初の予定):査定額 1.0億円 / 買い取り 7,000万円
- B社:査定額 1.1億円 / 買い取り 8,000万円(部屋の隅々まで入念に確認)
- C社:査定額 1.0億円 / 買い取り 9,000万円(室内をほとんど見ずに高額提示)
当初契約寸前だったA社とC社を比べると、買取金額だけでも2,000万円の差がつきました。
部屋を見ずに高額提示?C社が見抜いた「南向き需要」と「本当の勝ち筋」
なぜC社は室内を細かくチェックせずに強気の高値を提示できたのでしょうか。そこには不動産のプロならではの根拠がありました。
1. 「買いたい顧客」をあらかじめ抱えていた
C社は過去に同マンションの「東向き」の部屋を仲介した際、「南向きなら買いたい」と見送った顧客リストを保有していました。
そのため、「南向き」である由美さんの部屋なら、買い取りではなく「仲介」でも時間をかけずに即座に売れると見抜いたのです。
2. 築古物件のリフォーム前提需要
築30年の物件は、購入者が自分の好みにリノベーションすることを前提に購入するケースがほとんどです。そのため、室内の多少の汚れや傷みは査定額にほとんど影響しません。
3. 高すぎる査定額を提示する業者には注意
C社の担当者によると、業者の中には最初にあり得ないほど高い査定額を提示して契約を取りつけ、後から「高すぎて売れなかった」と理由をつけて安い買い取りへ誘導する悪質な手法(囲い込みや値下げ誘導)もあるため注意が必要です。
参考:不動産売却の選択肢「業者買取」とは?【早期売却にはうってつけ】
結末:仲介で早期売却!最初の提示より「3,000万円」高く売れた
由美さんは荒井さん同席のもとC社と契約。C社の見立て通り、仲介によって相場通りの1億円(当初A社買取より+3,000万円)で早期に売却することができました。
老後資金の不安が一気に解消された由美さんは、「これだけあれば長生きしても大丈夫ね」と安心して希望の有料老人ホームへと移ることができたのです。
なぜ最近、不動産業者は「買い取り」を勧めたがるのか?
かつては仲介が主流でしたが、最近は買い取りを優先的に提案する業者が増えています。特に「施設入居・買い替え・相続・離婚」など、現金化を急ぐ事情がある顧客はターゲットになりやすい傾向があります。
不動産会社側の収益構造を比較すると、その理由は一目瞭然です。
- 仲介手数料:売却価格の3%+6万円(両手取引でも約6%)
- 買い取り再販の利益:相場の7〜8割で安く仕入れ、リフォームして再販することで10%〜30%以上の粗利益が見込める
業者にとって買取は一気に大きな利益を狙えるビジネスモデルであるため、必ずしも「顧客の利益を最優先にして提案してくれるとは限らない」のが実情です。
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不動産売却で失敗しないための3つの鉄則
本事例から学べる、不動産売却で損をしないための重要ポイントは以下の3点です。
1. 1社の言い値を鵜呑みにせず、必ず相見積もりをとる
不動産会社や金融機関からの紹介であっても、1社だけに査定を頼むのは禁物です。買取額は不動産会社の「言い値」になりやすいため、最低でも3社以上で比較しましょう。
2. 時間にゆとりがあるなら「仲介」を第一選択にする
「数日中に現金が必要」な緊急事態でない限り、数ヶ月の猶予があるなら「仲介」で売りに出すほうが手残りは圧倒的に多くなります。
3. 高齢の親族が売却する際は「家族・親族」が必ずサポートする
高齢者一人だと「プロが言うのだから」「親切にしてくれたから」と断れずに不利な契約を結んでしまいがちです。家族や親族がセカンドオピニオンとして立ち会うことが最大のリスクヘッジになります。
まとめ:自宅売却はプロの比較と出口戦略が命
不動産は日用品と違い、金額が非常に大きな資産です。たった10%の違いが数百万円〜数千万円の差になって跳ね返ってきます。
老人ホームの入居資金や老後資金をしっかり確保するためにも、自宅を単なる古家と思わず「大切な資産」として捉え、複数のプロからアドバイスを受けて最適な売却方法(仲介・買取)を選択しましょう。
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