【成年後見人による不動産売却】4つのポイントと3つの注意点

代理人

親が高齢になり認知症になってしまったら、介護施設などに入所するケースはよくあります。親の家を売却して介護費や生活費を捻出したい場合もあるでしょう。

そんなとき、今まで親が住んでいた家をどうやって処分すれば良いのでしょうか?

実は認知症の方は、自分一人で家を売れないケースが多いので「成年後見人」を選任して売却手続きを進める必要があります

今回は、認知症の人が家を売るときの「成年後見人による不動産売却の方法」について、ポイントや注意点を中心に解説します。

記事の信頼性

監修者:毎日リビング株式会社 代表取締役・宅地建物取引士 上野 健太

不動産業者としての実務経験を活かし、売主の立場で記事を監修しています。
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成年後見人による不動産売却:4つポイント

成年後見人による不動産売却のポイントは以下の4つです。

  1. 認知症の人は、一人で家を売れないことが多い
  2. 成年後見制度を理解する
  3. 後見人の3種類について
  4. 成年後見人の選任方法

順に解説します。

①認知症の人は、一人で家を売れないことが多い

認知症
親が認知症になって1人暮らしが難しくなり家を売却したいとき、親が今まで管理してきたマンションやアパートなどを売却したいとき、どのように不動産売却の手続きを進めたら良いのでしょうか?

実は法律上、認知症の進行した人が自分で家などの不動産を売却することは難しくなっています。契約などの法律行為をするためには、「意思能力」という最低限の判断能力が必要だからです。

認知症が進んで判断能力が大きく低下してしまった人には意思能力が認められません。そういう状態の人が一人で不動産の売買契約を締結しても、無効になります

ただしひと言で「認知症」といっても程度があります。まだそれほど進行しておらず判断能力が残っているならば、単独で有効に不動産売買契約を締結できる可能性もあります。

目安として、小学校低学年以下の小さな子どもくらいの知能しかなくなっていれば意思能力がないので単独での不動産売却ができないと考えましょう。

②成年後見制度とは

認知症の進行した親の不動産を売却したいとき、親が自分でできないなら誰が手続きを進めたら良いのでしょうか?

この場合、たとえ子であっても勝手に親の資産を売却することはできません。また、判断能力の無くなった親は、有効に子に代理権を与えることもできません

成年後見制度とは

不動産を売るためには家庭裁判所で「成年後見人」という代理人を選任する必要があります。成年後見人とは、判断能力が低下した人の代わりに本人の財産を管理したり身上監護の方法を決めたりする人です。

成年後見人には法律行為について全面的に本人の代理権が認められます。また、本人が勝手にした法律行為についての取消権や追認権(後になって有効と認める権利)もあります。

成年後見人が適切にこれらの権利を行使することで、本人の財産や権利を守ることを目的にしています。

成年後見人であれば、本人の代わりに有効に不動産を売却できます。

③後見人の3種類について

成年後見人には、3種類があります。

本人の判断能力の低下の程度により、適切な段階の後見人が選任されます。
以下でみてみましょう。

成年後見人

成年後見人は、上記で説明した「全面的な権限を持つ後見人」です。日常生活をのぞいたあらゆる法律行為について本人の代理権を持ちますし、取消権や追認権も持ちます。

本人の判断能力がほとんどあるいは完全に失われているときに選任されます。

保佐人

保佐人は、本人の判断能力が著しく低下しているときに選任される後見人です。民法の定める一定の重要な法律行為についての同意権、取消権、追認権が認められます。

不動産の売却も、保佐人による同意を要する内容に含まれています。認知症になっていても、少し判断能力がある場合には保佐人が選任されます。

補助人

補助人は、本人の判断能力に不安がある場合に選任される後見人です。補助人には、法律上必ず認められる同意権や取消権などの権利がありません。

民法が定める一定の重要な法律行為の中から必要な事項を抜粋し、個別に同意権や取消権などを認めてもらう必要があります。

そこで本人に補助人をつけて不動産を売却したいときには、補助人申し立ての際に、不動産売却についての同意権、取消権を付与するように求める必要があります。また、補助人申し立てをするときには、本人の同意が必要です。

一般的に、認知症の親のために後見人の申立てをする場合、上記の中でも「成年後見人」の選任を求められます

ただし家庭裁判所における審理段階で「判断能力があるので保佐や補助が適切ではないか」と判断されると、保佐人や補助人などの別の後見人が選任される可能性もあります。

④成年後見人の選任方法

成年後見人を選任するときには裁判所に申立てを行い、家庭裁判所によって適切な人を選んでもらう必要があります。

必要なのは「成年後見開始審判申立て」です

管轄の家庭裁判所

成年後見開始審判申立の管轄の家庭裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

ここで言う本人の住所地とは、必ずしも住民票上の住所ではなく、基本的には「実際に本人が居住している場所」が基準となります

申立権者

申し立てをできるのは、以下の人です。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族
  • 市町村長
  • 検察官
  • 成年後見人等
  • 成年後見監督人等

一般的には配偶者か4親等内の親族が申し立てします
4親等内の親族は、親や子、孫や祖父母、叔父、叔母、甥、姪、いとこ、配偶者の父母や祖父母、配偶者の兄弟姉妹などです。

また、本人が天涯孤独で老人施設に入所している場合などには、市町村長が申し立てをするケースもあります。

必要書類

成年後見の申立を行うためには以下のような書類が必要です。事前に作成または取り寄せて用意しましょう。

成年後見申立時の必要書類

・申立書

家庭裁判所のページからダウンロードして自分たちで作成します。

・申立事情説明書

家庭裁判所のページからダウンロードして自分たちで作成します。

・親族関係図

本人や候補者、申立人などの親族関係を表にして作成します。

・本人の財産目録

本人の財産内容を示した一覧表です。自分達で作成します。

・本人の収支目録

年金などによる収入と保険料などの支出を表にした目録です。

・後見人等候補者事情説明書

後見人の候補者を立てる場合には、どういう関係なのかなど事情を説明する書類が必要です。

・親族の同意書

特定の候補者を立てる際には、他の親族が同意していることを示す同意書を提出するとスムーズです。

・成年後見制度用の診断書・診断書付票

定まった書式の診断書を医師に作成してもらいましょう。

・本人の戸籍謄本・住民票

・後見人等候補者の戸籍謄本・住民票

戸籍謄本は本籍地の役所で、住民票は住民登録されている役所で取得します。発行から3か月以内のものが必要です。

・本人の登記されていないことの証明書

居住地の管轄法務局に申請して取得します。

・本人の財産状況についての資料

預貯金通帳の写し、不動産全部事項証明書の写しなどを用意します。

成年後見審判開始申立の流れ

成年後見人審判開始申立の流れ
  1. 必要書類を集める
  2. 申立書と必要書類、費用(収入印紙や切手)を裁判所に提出する
  3. 審理、鑑定が行われる
  4. 成年後見開始の審判が下る
  5. 審判書が送られてきて登記される

順番に見ていきましょう。

①必要書類を集める

まずは上記で紹介したとおり、申立てに必要な書類を集めましょう。

②申立書と必要書類、費用(収入印紙や切手)を裁判所に提出する

次に申立書と集めた書類、必要な費用を管轄の家庭裁判所に提出します。持参でも郵送でもかまいません。

③審理、鑑定が行われる

申立書が受理されると、裁判所で後見人の選任を認めるかどうかが審理されます。

書類審査と申立人ら親族との面接です。面接の際には、なぜ申立をしたのか、他の親族と争いがないかなどの事情を聞かれます。

さらに、他の親族に対しても意向照会が実施されます。必要があると判断されると本人の鑑定も行われます。

④成年後見開始の審判が下る

上記のような審理や鑑定が済み、最終的に本人に成年後見人が必要と判断されると、家庭裁判所が後見開始の審判を出します。審判と同時に成年後見人となる人も決まります。

候補者がそのまま選ばれるケースもありますが、そうではなく弁護士などが選任されることもあります

⑤審判書が送られてきて登記される

成年後見審判があると、申立人や親族のもとへ「審判書」が送られてきます。

その後、誰も即時抗告(不服申立)をせずに2週間が経過すると、審判が確定して成年後見人の登記が行われます。
登記手続は家庭裁判所が行うので、申立人が対応する必要はありません。

⑥登記が済んだら「登記事項証明書」を取得する

成年後見人の登記が済んだら、後見人となった人は「登記事項証明書」を1通取得しておくことをお勧めします。

登記事項証明書とは、本人に成年後見人がついていることと、成年後見人の氏名等の情報が載っている証明書です。

これがあると、自分が成年後見人であることを第三者に主張することができるので、業務を進めやすくなります。

成年後見申立・審判にかかる費用

成年後見申立・審判にかかる費用
  1. 収入印紙
  2. 切手
  3. 登記費用
  4. 鑑定費用

順番に見ていきましょう。

①収入印紙

成年後見人選任を申し立てるためには、収入印紙を使って家庭裁判所に費用を払う必要があります。後見人の種類によって金額が変わります。

成年後見人の場合…800円

保佐人の場合…基本的に800円
保佐人に同意権を追加でつける場合…1,600円
保佐人に代理権を追加でつける場合…1,600円
保佐人に同意権と代理権の両方を追加でつける場合…2,400円

補助人に同意権をつける場合…1,600円
補助人に代理権をつける場合…1,600円
補助人に同意権と代理人をつける場合…2,400円

②切手

連絡用の郵便切手が必要です。裁判所によって金額や内訳が異なりますが、3,000~5,000円程度です。

③登記費用

成年後見人(保佐人や補助人も同じです)が選任されると、登記しなければなりません。そのため収入印紙が2,600円分必要です。

④鑑定費用

成年後見人を選任するとき、本人の精神状態について医師などによる「鑑定」が行われるケースがあります。
鑑定が実施される事例は少数ですが、実施されたら10万円程度の費用が発生します。

成年後見人による不動産売却:3つの注意点

ここからは、成年後見人による不動産売却の注意点を解説していきます。

主な注意点は以下の3つです。

  1. 誰を成年後見人にすべきか
  2. 専門家が成年後見人になったら費用がかかる
  3. 居住用不動産の売却には、別途の許可が必要

①誰を成年後見人にすべきか

後見人を選ぶ
成年後見人の申し立てをするとき、誰を成年後見人にすべきかに注意が必要です。
多くのケースでは、本人の親族で年齢の若い人を候補者に立てています。たとえば子どもがいたら子どもが候補者となることが多く、孫が後見人になるケースもあります。

直系の親族がいなければ、甥や姪が後見人候補者となります。

ただし子供達の間で対立があり、誰を候補者にするか決められない場合には裁判所で弁護士などの第三者が選任されます。

当初に子どもを候補者に希望したとしても、他の親族が反対したら見も知らない専門家が選任されてしまうので注意が必要です。

②専門家が成年後見人になったら費用がかかる

親族間に争いがあり、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人になると、費用が発生するので注意が必要です。金額は、1カ月について2~6万円程度です。

本人の財産から差し引かれるので申立人自身が支払う必要はありませんが、将来遺産相続の際に相続財産が目減りしてしまいます。

基本的に本人が死亡するまで費用が発生し続けるので、総額にすると相当な金額になってしまうケースもあります。

③居住用不動産の売却には、別途の許可が必要

成年後見人が選任されても、居住用不動産の売却は成年後見人の独断ではできないので注意が必要です。

家は本人にとって特に重要な資産なので、売却の際には別途家庭裁判所の許可が必要とされているからです。

たとえ全面的な代理権を持つ成年後見人であっても、家庭裁判所の許可を得ずに独断で家を売った場合、売買契約は無効となります。

また家庭裁判所で家の売却許可を得るためには、相応の理由が必要です。売却が認められるのは、以下のようなケースです。

  • 介護施設に入るための入所費用や月額費用を用意するため
  • 本人の生活費を捻出するため
  • すでに介護施設などに入っており今後家に戻る予定がなく、維持管理費用や固定資産税が無駄になっている

居住用不動産処分許可の申立ての方法

居住用不動産処分許可の申立ては、成年後見の審判のあった家庭裁判所で行います。

その際、以下の書類が必要です。

  • 不動産の全部事項証明書
  • 固定資産評価証明書
  • 売買契約書案の写し
  • 不動産の査定書

収入印紙800円と84円の郵便切手を一緒に提出する必要があります。

申立後、提出された資料を審理した結果、家庭裁判所が家の売却を許可してはじめて売却が可能となります。

売買契約書や査定書を提出するので、不当に低い条件で売却しようとしている場合などには許可が下りない可能性もあります。

買主(予定者)に対しては、家庭裁判所の許可が下りないと売却が難しくなる可能性があることを予め伝えて、その旨を契約書に記載しましょう

売却許可を得たら成年後見人が売買契約に署名押印を行い、有効に売買契約書を作成して売却手続き進め、登記や決済を行うことができます。

非居住用不動産の場合

本人の投資用マンションなどの、非居住用不動産(収益物件)の場合には家庭裁判所の許可は不要です。

成年後見人の判断で売買契約を締結して売却できるので、買主を見つけて売買契約を締結し、普段通り決済と登記を行えば売却を完了できます。

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