【認知症と不動産売却】注意すべき4つのポイントを宅建士が解説

親の介護

「親も高齢だし実家の相続、処分方法をそろそろ考えないといけないな」
「もし親が認知症になったら実家の売却はできるの?」

 

こんな悩みを解決します。

世界一の長寿国である日本。長生きできるのは素晴らしいことですが、長寿だからこその問題も増えているのが現実です。

身近なことで一番大きいのが、介護の問題です。特に「認知症」となってしまった親や配偶者の介護は、精神的に疲弊し、金銭的にも家族を苦しめます。

認知症になってしまうと「親のお金で親の介護費用を出す」という当たり前のことが難しくなります。さらに難しくなるのが、認知症の人が所有者となっている家を売却すること。

「家を売ったお金で介護費用や老後の資金を」と考えている人もいらっしゃるでしょうが、家が売却できない可能性がある以上、それは危険な考え方です。

結論から言うと、不動産は親が施設に入ったタイミングなどで売却するのが正解。そして大事なのは「認知症になる前」です。

今回はその理由を詳しく説明していきます。

記事の信頼性
監修者:毎日リビング株式会社 代表取締役・宅地建物取引士 上野 健太
不動産業者としての実務経験を活かし、売主の立場で記事を監修しています。
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認知症は誰もがなりうる病気

認知症
認知症とは
物忘れや認知機能の低下により、脳の神経細胞が障害を受けて死滅し、減少していくことで起こります。
発症すると、下記のような行動・心理の変化が生じます。

行動の変化が起こる

具体的な行動の変化
  • 時間や場所の感覚が分からなくなる
  • 考え事に時間がかかるようになる
  • 一度に複数のことをこなせなくなる

性格や感情の変化が起こる

具体的な性格や感情の変化
  • 無気力・うつ状態
  • 大声を出す
  • 怒りやすくなる
  • 妄想を抱くようになる

このような変化により生活に支障が生じるため、周囲の方の援助が必要になります。

早期発見が最も重要で、脳神経細胞が完全に死滅してない早期段階で治療を開始できれば、病気の進行をある程度遅らせることができます。

「自分は認知症にはならない!」
「まだまだしっかりしているし、うちの親は認知症とは無縁だな」
このような根拠のない自信を持っている人がけっこういますが、認知症は「よく頭を使っている」「運動もしている」等、普段から健康に気をつけている人でもなってしまうリスクがあります。

厚生労働省は「高齢者の約4人に1人が認知症の人、またはその予備群」とし、高齢化の進行とともに、2025年には約700万人が羅患すると推測しています。
高齢化や相続税の改正などにより、「相続対策」をしている人は近年増えてきています。

一方で、「認知症対策」をしている人ってどれくらいいるでしょうか?
認知症になることで一番に問題になるのは、不動産を含めた資産が事実上「凍結」してしまうこと。

要は、預貯金を下ろしたり、不動産を売買したりすることが、基本的にできなくなってしまうということです。
預金から毎月天引きしているものも、凍結してしまえば支払いは止まります。

また、子などを代理人に委任して売買契約などをすることも、認知症の人はできません。
「資産凍結」は、後見人が決まれば解除されます。

しかしその場合も、完全に「解凍」とはいかず、特に不動産の売却については、本人が亡くなって、相続によって所有権が移転するまでできない可能性もあります。
考えようによっては、認知症の発症は相続よりも問題が大きいともいえます。

相続であれば、必要な手順さえ踏めば所有権は相続人に移転するので、不動産の売却も活用も好きなようにできます。
認知症になるリスクは誰にでもあるので、相続対策をするように認知症対策をすることもこれからは重要になってくるといえます。

認知症になる前に不動産売却した方がいい4つの理由

ではここからは具体的に認知症になる前に不動産を売却するべき理由を、4つ見ていきましょう。

①後見人が決まっても「家の売却」が許可されない可能性も

認知症によって判断能力がなくなったと判断されれば、資産が事実上凍結されるというのは前述の通りです。

どうやっても「お金を下ろせない」、「不動産売却ができない」というわけではなく、「法定後見人」を選出してもらえば、その人が主体となっておこなうことができます。

ただ、認知症発症後に家族などの申請によって裁判所から指定される「法定後見人」は、多くのケースで家族や親族ではなく、弁護士や司法書士などの専門家です。

法定後見人の役割は、「本人の利益のため、本人の財産を守ること」。
彼らは本人の預金通帳や印鑑、実印などを管理し、本人に代わってお金を引き出すことや、法的効力のある契約をする権利を持ちます。
家族がもしお金が必要だったり、家の売却を希望したりする場合には、法定後見人に「お願い」するしかありません

家族でありながら他人にお願いするのはなんとも変な感じですが、これが法定後見人の持つ権利であり、日本の法律です。
「本人の利益のため」という解釈が難しいところなのですが、例えば「本人の介護のために預貯金を下ろしたい」だったらそれは許可されます。
しかし「本人の介護費用を捻出するために、自宅を売却して欲しい」という家族の申し出には、許可を得られるケースは少ないと考えられます。

「介護費用のため」といっても、自宅を売却するということは本人の帰る場所がなくなってしまうということ。それは「本人の利益に反する」と判断されてしまうからです。

またアパートなどの収益物件に関しては、逆に家族の意思がないのに売却されてしまうということも考えられます。認知症となった人はアパートの住人との契約更新などができませんが、法定後見人が代わってすることができます。
法定後見人が「管理不十分」「今後の収益が見込めない」と思えば、「本人の利益のため」そのアパートを売却してしまうこともあります。

つまり認知症になってしまうと、家族の意向によって不動産を売却することはまずできないということです。
「売って欲しいものは売ってくれない、売って欲しくないものは売られてしまうことが起こりかねない」
このことが、認知症になる前に不動産を売却した方がいい理由の1つです。

参考:【成年後見人による不動産売却】4つのポイントと3つの注意点

②認知症になってしまうと遺言が遺せない

遺言は、認知症によって判断能力がなくなる前に遺したものは有効ですが、その後のものは無効となります
「だったら今、遺言を書いてもらえばいっか」と思う人もいらっしゃるでしょう。

確かに遺言は、認知症になる前に書いてもらうべきです。でもそれは「今」ではなく、ご自宅を売却してからでも遅くはありません。

自宅を残すとなると、「家は長男に」「現金は次男に」など本人や家族の意向があります。
しかしこれから介護費用などで現金が少なくなっていく今、遺言をこのように書けば、現金を相続する方が損をすることにもなりかねません。

一方、遺言がなければ、法定相続人に法定相続分だけ相続されることになります。
法定相続分とは、配偶者が1/2、子が2人であれば1/4ずつ。配偶者がおらず子2人のみだったら、1/2ずつです。

相続する家の評価額が2,000万円、現金が2,000万円だったら、「家は長男に」「現金は次男に」でも1/2ずつですから問題ありません。
でもこんなにうまくはいかないですよね。

例えば家の評価額が2,000万円、現金が500万円だったら、次男には法定相続分が相続されないことになってしまいます。

この場合は、長男が不足分の750万円を次男に渡せば解消できます。

【相続資産】家2,000万円+現金500万円÷2人=1,250万円(1人あたり)

よって長男から次男に現金750万円渡せば計1,250万円になるという計算です。

これを「代償分割」といいますが、お金を用意する方が応じないケースが多いんです。
こんな大金を用意できないという理由もありますが、大金を払うにも関わらず、今後家の固定資産税や維持費用などを負担するのは家を相続した方のみ。
かといって売却しても、その時に譲渡所得が生じればその税金を負担するのも相続した方のみだからです。

参考:不動産の代償分割とは?正しく理解して相続を円滑に済ませよう!

法定相続分の割合

配偶者がいる配偶者がいない
第1順位
(子・孫)
配偶者1/2
子供1/2(2人なら各1/4)
子1/1(2人なら各1/2)
第2順位
(父母・祖父母)
配偶者2/3
父母1/3(父母とも健在なら各1/6)
父母1/1(父のみなら父が1/1)
第3順位
(兄弟姉妹)
配偶者3/4
兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が2人なら各1/8)
兄弟姉妹1/1(兄弟姉妹が2人なら各1/2)
上記血族がいない配偶者1/1

一方、家を売って現金にした上で、相続された現金と合わせて分割する「換価分割」という方法もあります。
この場合はきれいに分割することはできますが、今度は「家を売りたくない」という人が出てくることも考えられます。

現金以外のものを相続する場合、分割方法で相続人が揉める可能性は非常に高いんです。

とはいえ不動産は現金より相続税の評価額が下がりますから、現金化しないことが「相続対策」になるのは事実です。
ただ相続税の基礎控除は、「3,000万円+600万円×相続人の数」。子2人への相続だったら、4,200万円までは非課税です。
さらに配偶者には、配偶者控除として法定相続分と1億6,000万円のどちらか多い金額まで非課税になる制度があります。
また認知症になる前には贈与も可能です。子への贈与は非課税となるケースもたくさんあります。

例えば子や孫への教育資金は最大1,500万円まで、結婚資金や子育て資金は最大1,000万円まで、住宅購入資金は最大1,000万円までが非課税です。

相続税の基礎控除や生前贈与により、ご自宅を売却したとしても相続時の課税を最大限少なくすることが可能です。
ただ亡くなる前の3年以内の贈与は、相続税の対象となる制度がありますので、生前贈与については早めにおこなうようにしたほうが良いです。
介護施設に入所する場合は、認知症になる前に不動産を売却し、資産を整理された上で遺言を作成することで、相続人が揉めることなくスムーズに相続することができます

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③家の資産価値が下がる

認知症の方が所有者である家を売却するには、法定後見人の許可が必要だとお話しました。しかし「本人の利益に反する」として、その許可がなかなか降りないというのも前述の通りです。
つまり、本人が亡くなって相続によって所有権が移転するまでずっと売却することができない可能性もあるということです。

認知症になった人でも、体はいたって元気という人もたくさんいます。発症から10年、20年と長生きされる方もいらっしゃいます。
もちろん数十年に渡ってずっと売却の許可が降りないとは考えにくいですが、売りたくても売れない間も家の資産価値は下がり続けます

一般論になりますが、木造の戸建ては新築から10年間で価値が半分に、20年で価値がゼロになるともいわれています。
土地の価値は経年劣化しないものの、これから人口がどんどん減少していき、空き家が増え続ける日本において、どんな場所でも地価の保証はできません。

認知症になるということは、売却のチャンスを逃すということにも繋がるわけです。都市部では不動産バブルともいわれていますが、フラット35や都市銀行はじわじわと金利を上げてきています。

更に、ロシアのウクライナ侵攻等による世界経済の衰退、人口減少や空き家の増加により、長期的な不動産価格の下落は今後避けることはできません。

近い将来でも悲観的にならざるを得えない中、5年、10年と売りたくても売れない期間があれば、不動産価格は今とは比べものにならないほど暴落していることも考えられます。
市場動向を中長期的に考えても、家の経年劣化を考えても、「今が一番高く売れる時期」というのは確かです。
これが親の元気な今売るべきだという最大の理由です。

参考:不動産売却の失敗とは?【これだけは知ってほしい!】

④マイホーム売却時の3,000万円控除が使える内に不動産の売却を

認知症になる前に家を売る事は、税制上でも大きなメリットがあると考えられます。
不動産は売却時に利益が生じると、所得税と住民税が課税されます。

売却益にかかる税率は、家の所有期間が5年以内(短期譲渡)であれば39%、所有期間が5年超(長期譲渡)の場合は20%とかなり高額です。
ただマイホーム売却時には、利益から3,000万円控除される制度があるので、多くのケースで課税されることはありません。
しかしこの制度には有効期限があり、「マイホームに居住しなくなったときから3年目の年末」までしか適用になりません。

親が介護施設へ入所したら、3年後の年末までに自宅を売却しなければ3,000万円控除は受けられなくなるということです。

また平成28年に新設された「空き家相続にかかる3,000万円控除」では、相続人が売却益を得た場合にも同じように控除されることが可能になりました。

しかしこちらの制度の適用条件には、「被相続人が亡くなる直前まで自宅として利用していた」とあります。
つまり介護施設に入所するなどして空き家になっていた家を相続した場合、この控除は適用されないということです。
そのため空き家となった家は、相続前の所有者のご健在の内に、そして認知症となってしまう前に、早めに売却するのが最大の節税となるわけです。

参考:5分でわかる!3,000万円特別控除とは?【相続空き家編】

要介護状態になる前に不動産を売却すること:まとめ

認知症の方を介護するのは、精神的、金銭的に大きな負担となります。そんなときに「介護費用が捻出できない」「家も売れない」となると、周りの方は二重、三重の苦労を強いられることになりえます。

認知症になってしまうと、今ある資産の現金化や相続対策は愚か、預貯金の引き出しまでが自由にできなくなってしまいます。
そのため「認知症対策」は、相続対策以上に急務となります。

重要なことは、自宅を売却する時期。高齢者施設への入所を期に空き家になる家は、税制上でも所有者が元気なうちに売却するのが正解です。

認知症対策をすることは、周りの方はもちろんご本人のためでもあります。本人の意思を反映し、周りの人への不要なトラブルを回避するためにも、ご本人が元気なうちにご家族でしっかり話し合うことをおすすめします。

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