相続土地国庫帰属法ってなに?4つのポイントで詳しく解説

相続土地

所有者不明の土地の解消に向けた民法等の一部を改正する法律が2021年4月21日に国会で成立、同月28日に公布されました。

相続登記の義務化も盛り込まれましたが、同時に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」、いわゆる「相続土地国庫帰属法」も公布されました。

今回はこの「相続土地国庫帰属法」とはどんなものなのか、詳しく解説します。

記事の信頼性 監修者:毎日リビング株式会社 代表取締役・宅地建物取引士 上野 健太
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相続土地国庫帰属法とは?その背景

相続土地国庫帰属法とは、相続や遺贈によって土地を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地を手放して国庫に帰属させることが出来る制度です。

つまり、相続などで取得した土地を国に引き取ってもらえるということです。

今の民法では、財産は全部相続するか、全部放棄するかのどちらかしか選択肢がありません。この財産は相続するけどこの財産はいらないので相続しない、ということはできませんでした。

参考:相続不動産は放棄できる!?相続放棄について3つのポイントで解説

相続土地国庫帰属法が施行されることとなった背景

東日本大震災が起こった後、多くの土地が所有者不明という事態となりました。

相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくても問題ない場合がほとんどでした。その結果、震災後に土地の所有者を調査した時に、登記簿の所有者が亡くなっていたり、所在地がわからず連絡がつかなかったりしたのです。

都市部への人口の集中や、急激に進む高齢化による死亡者の増加により、地方を中心に今後相続土地も増加すると思われます。
今の法律のままでは、相続登記がなされず所有者不明の土地がますます増えてしまいかねません。

このようなことがきっかけで、所有者不明の土地を減らすべく、相続登記の義務化の公布と、この相続土地国庫帰属法が施行されることとなったのです。

以前は、土地は所有していれば財産となっていましたが、近年は「負動産」とも言われ、所有しているだけでコストがかかり、手放したいと考えている人も多いようです。そのようなニーズにも対応出来る法律でもあります。

相続土地国庫帰属法はいつから施行?

相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日よりスタートしました。

相続土地国庫帰属法という制度を使うためには?

「不要な土地を国が引き取ってくれる」と言うと、誰でもどんな土地でも可能なのかというと、そうではありません。

この制度を利用するのは、意外と難しいものになりそうです。
土地の管理や維持にはそれなりのコストや労力がかかるのは、土地を所有している方ならおわかりでしょう。
それを国がするとなると、条件が厳しくなるのはある程度仕方の無いことかもしれません。

以下より詳しく説明します。

相続土地国庫帰属法を申請できる人

「相続、あるいは相続人に対する遺贈によって土地を取得した人」のみに限られます。売買によって取得した土地は対象外となります。

ただし、共有名義の土地で、そのうちの一人でも、相続あるいは遺贈で持ち分を取得していた場合は申請することができます。

その際は、共有者全員が共同で申請します。

相続土地国庫帰属を申請できる例

相続土地国庫帰属法申請が可能な例

上図の例では、兄弟で土地を共同で購入後、兄が亡くなり、持ち分1/2を子が相続しました。

兄の子の相続が発生したことにより、この制度を利用することが可能となり、弟と兄の子と共同で申請することが可能です。

国庫帰属の対象となる土地

通常の管理又は処分に大きな費用や労力が必要となる土地ではなく、下記の項目にいずれも該当しない土地が対象となります。

国庫帰属できない土地の例
  • 建物・工作物・車両等があり、通常の管理や処分を阻害している土地
  • 担保権などが設定されている土地
  • 通路になっているなど他人に使用される土地
  • 土壌汚染や埋設物がある土地
  • 境界が明らかでない土地
  • 危険な崖がある土地
  • 権利関係で係争中の土地

要は管理が難しい、管理をするのに多大な費用や労力がかかる土地は、申請しても承認されないということです。

承認が下りるにはかなりハードルが高く、難しいものであると思われます。

相続土地国庫帰属にかかる費用

審査手数料のほか、審査後国庫への帰属の承認を受けた場合は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出された10年分の土地管理費相当額の負担金を納付する必要があります。

具体的な金額や算定方法は、今後政令で定められる予定です。

現在の国有地の土地の性質に応じた標準的な管理費用10年分

・粗放的な管理で足りる原野・・・約20万円
・市街地の宅地(200㎡)・・・約80万円

(法務省民事局「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」より引用)

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相続土地国庫帰属法を利用した方が良いケース

要件を満たした土地であれば国への帰属は確実なので、完全に手放すことができます。

利用した方が良いケースをいくつかご紹介します。

売却先を探す手間を省きたい

土地を手放す時は、売却をするのが一般的な方法でしょう。需要があり、売却が可能な場所の土地であれば、売却するのが一番良い方法です。

しかし、需要があまりない土地であれば、なかなか買い手が見つからず、その間何年も固定資産税を支払い続けたり、草刈りなどの管理を続けたりしないといけません。

少しでも早く手放したいのであれば、この制度を利用する価値はあるでしょう。

参考:固定資産税の計算方法と不動産売却時の精算について【宅建士が解説】

売却先について心配したくない

相続した土地は、先祖代々引き継がれた土地であることも多いでしょう。このような土地が、売却によってよくわからない相手の手に渡ってしまうことに不安を感じる方もいるかもしれません。

売却後に購入者がきちんと管理をしていなければ、近隣からの苦情が出たりする可能性もあります。ご先祖からの縁ある土地が、そのような事態になってしまうのは避けたいところです。

この制度は、国が引き取り手となるので、その点は安心です。国に帰属すれば国有地となるので、管理についても心配することはありません。

農地である

農地は手放すのがとても難しい土地です。農地は、農地法という法律があり、売買や農地以外への転用を厳しく規制しています。

農地は日本の食糧自給率に関わるため、その食糧を安定して生産する場を維持しなければなりません。
そういった理由から、農地の売買や賃借は農業委員会の許可を得る必要があり、勝手に売買したり、違う目的で使用したりすることができないのです。

その点、相続土地国庫帰属制度は、先述した土地の条件に当てはまれば、農地であっても宅地と同じように審査されます。

承認されれば、国に帰属することは確実です。

参考:【農地の売却】5つの注意点と2つの売却方法を徹底解説

キャンセルなどを心配したくない

土地を売却する場合は、やむを得ない事情で契約がキャンセルになってしまうこともあります。その場合、ふりだしに戻ってしまい、それまでの労力も無駄になってしまうことも。

相続土地国庫帰属制度は、承認されれば国は引き取りを拒否することはありません。決定したことが覆されることがないので、引き取り先としてとても安心です。

土地に瑕疵があった場合の責任を負いたくない

不動産を売却では、契約締結後に不動産に瑕疵(欠陥)が見つかった場合、売主側が法的責任を負わないとなりません。

以前は「瑕疵担保責任」と言う法律でしたが、2020年4月に民法が改正され、「契約不適合責任」となり、買主側に従来よりも多くの権利を認める法律となっています。

また、買主側が権利を行使できる期間も長くなりました。そのため不動産売却は、その後も法的責任を負うかもしれないというリスクが多少なりともあります。

これに対して、相続土地国庫帰属制度は、先述した承認不可である土地ということを隠して帰属させた場合等以外は法的責任を負わないとされており、そのリスクは売買の時よりも非常に限定的であるといえるでしょう。

参考:不動産売却時の「瑕疵担保責任」について3つのポイントで解説

相続土地国庫帰属の手続きの流れ

要件を満たす土地であり、相続土地国庫帰属制度を利用するためには、以下の手順で手続きを進めます。

まだ制度が開始されておらず実績がないため、不透明な部分もありますが、完了までに数ヶ月かかると考えておいた方が良いでしょう。

相続土地国庫帰属の承認申請

承認申請書と申請する土地についての必要な情報を併せて提出します。その時に審査に必要な費用、手数料も納付します。

審査に必要な費用としては、土壌汚染の調査等が考えられます。

国による審査・承認

「法務大臣が審査する」ことになっていますが、実際は法務局の職員が審査します。

審査では、申請した土地や周辺の実地調査をしたり、申請者やその関係者から聞き取り調査をしたり、必要に応じて資料の追加を求めたりといったことがなされます。

審査により、要件を満たしている場合は、法務大臣より承認を受けることができます。

負担金の納付

承認後に、通知された負担金を納付します。通知から30日以内に納付しないと、承認が取り消されてしまいますので、注意が必要です。

納付が完了した時点で、国庫に帰属することになります。

まとめ

相続土地国庫帰属法は、条件をクリアできる土地が限定的であり、実際に承認を受けるにはかなりハードルが高いものと考えられます。

加えて、申請者の金銭的な負担も大きいのも難点です。

負担金はもちろん、申請前に必要に応じて解体費用・境界の確定測量費用なども発生することもあります。

相続した土地を手放したいとお考えの方は、まず不動産会社にご相談してみることをおすすめします。

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